キヤノン 令和6年度全国発明表彰「朝日新聞社賞」を受賞
キヤノン 2024年6月5日発表
キヤノンは、公益社団法人発明協会が主催する令和6年度全国発明表彰において、「次世代天文観測を実現する高性能回折格子の発明」(特許登録第6253724号)で、「朝日新聞社賞」を受賞したと、6月5日に発表した。
全国発明表彰は、日本の科学技術の向上と産業の発展に寄与することを目的に、公益社団法人発明協会が、多大な功績をあげた発明を表彰するものである。「朝日新聞社賞」は全国発明表彰において10点ある特別賞の1つである。
本発明は、天文観測などに用いられるイマージョン回折格子に関するものである。回折格子とは、光を波長ごとに分ける赤外線分光器に搭載される分光デバイスのことで、宇宙の微弱な光から情報を得るための重要な役割を担っている。従来の表面反射型の回折格子は、分光性能の不足により微量分子の観測が困難だったが、キヤノンは、高屈折率材料の中を光が透過するイマージョン回折格子を開発することで、分光性能の向上を試みた。
しかし、高屈折率材料は割れやすいという欠点がある。これに対し、キヤノンは、レンズや半導体露光装置などの精密部品製造で培った独自の超精密加工技術を用いることで、数μm幅の階段状の加工を実現したが、光の散乱を引き起こす凸部の欠けを完全になくすことはできないという課題に直面した。
そこで「欠けをなくすのではなく、その散乱作用を不能にする」という発想の転換により、凸部を鋭角に加工して光が通過する経路から逸らすという特異な構造を発明した。これにより、理論値に近い分光性能が得られるイマージョン回折格子の開発、ならびに赤外線分光器の小型化を実現した。
本発明により開発したイマージョン回折格子は、日本および欧州の天文台への導入や人工衛星への搭載が予定されているほか、医療や環境分野などの天文観測以外での活用も期待されている。
【受賞および受賞者】
《朝日新聞社賞》
杉山 成氏 (キヤノン株式会社 生産技術本部 主任研究員)
田中 真人氏 (キヤノン株式会社 生産技術本部)
《発明実施功績賞》
御手洗 冨士夫氏 (キヤノン株式会社 代表取締役会長兼社長 CEO)
なお、本発明に関する受賞とは別に、このたびの全国発明表彰において、同社顧問の長澤健一氏が長年の発明の奨励、青少年の創造性開発育成、知的財産権制度の普及啓発に貢献した功績が認められ、「発明奨励功労賞」を受賞した。