キヤノン 計測が難しい黒色プラスチック片も同時計測できる高精度選別法を開発
キヤノン 2023年7月12日発表
キヤノンは、リサイクルにおけるプラスチック片の種類を選別する際に、判別が難しい黒色プラスチック片とその他の色の プラスチック片を、高精度に同時選別することができるトラッキング型ラマン分光技術を開発したと、7月12日に発表した。2024年上期には、本選別法を導入したプラスチック選別装置の発売を予定している。
私たちの生活で幅広く活用されるプラスチックをリサイクルするには、ABS、ポリプロピレン(PP)などの種類を正確に選別する必要がある。現在、プラスチック片の種類選別では、近赤外分光法が主流だが、家庭用電化製品や自動車の内装などに多く使用される黒色プラスチック片は可視光を通さず反射もしないため、選別することができず、多数が燃料として再利用されている。
一方でラマン分光法は、レーザー光をプラスチック片に照射し、物質の分子情報を取得する測定法で、黒色プラスチック片も計測できる。しかし、黒色プラスチック片は散乱する光が少なく、他の色のプラスチック片に比べて計測に時間がかかるため、高速に多量の処理が必要なプラスチック選別への適用は困難だった。
そこで、ラマン分光法とキヤノンの計測・制御機器を組み合せることにより、1つ1つのプラスチック片の色に合わせた計測時間を確保し、黒色も含めたプラスチック片を高速かつ高精度に同時選別するトラッキング型ラマン分光技術を開発した。効率良く選別することで、再利用できるプラスチック量の最大化に貢献する。
トラッキング型ラマン分光技術の特長は、キヤノンの計測・制御機器を使い、高速に動くベルトコンベヤー上のプラスチック片の正確な位置を把握し、レーザー照射位置を走査することで、それぞれのプラスチック片の選別に必要な時間のレーザー光を照射し続けられることである。非接触測長計「PD-704」(2021年5月発売)は、高速に動くベルトコンベヤーの速度を高精度に計測できる。さらに、ガルバノスキャナー「ガルバノスキャナーモーターGM-2020」(2022年1月発売)は、ベルトコンベヤー上のプラスチック片に合わせて高精度にレーザー光を走査し、走査時間をプラスチック片の色により変更する。これにより、高速にプラスチック片が搬送される中でも、ラマン分光法の課題であるプラスチック片の色の違いによる散乱光量の差をレーザー光の走査時間で解決し、高生産性と高精度の両立を実現する。
つくる責任つかう責任(SDGsゴール12)が国連の開発目標として定められている。キヤノンは、2008年に環境ビジョン「Action for Green」を制定した。「豊かな生活と地球環境が両立する社会」の実現に向けて、製品ライフサイクル全体での取り組みを通じ、人々の生活をより一層豊かにする製品・サービスの提供と、環境負荷の低減を同時に推進している。
【トラッキング型ラマン分光技術を導入したプラスチックの選別方法のしくみ】
(1)プラスチック片を投入。
(2)画像認識システムで計測前にあらかじめプラスチック片の位置だけでなく色の明るさや大きさなどの特長を判別。
(3)非接触測長計「PD-704」でベルトコンベヤーの速さを計測。
(4)ガルバノスキャナー「ガルバノスキャナーモーターGM-2020」に付けた専用ミラーでレーザー光をプラスチック片1つ1つに追従して照射。
(5)反射したレーザー光や散乱光をキヤノンの開発した受光ユニットで受光。
(6)独自開発した分光ユニットでラマン散乱光を計測。
(7)独自開発した識別ソフトで解析。設定を変更することで、多種多様な プラスチックの選別が可能。