【 米国のアクティビスト、カール・アイカーン氏がゼロックスから退出 】
2023年10月4日(執筆=OAライフ主筆 久保哲夫)
約10年にわたり、米国のゼロックスの主要株主として経営に関与してきたアクティビストのカール・アイカーン氏とその関係会社(以下、アイカーン氏側)が、9月29日、所有する普通株式のすべてをゼロックスに売り渡し、同社の経営から退出した。総額は約5億4,200万ドルで、購入契約締結前の最後の取引日である2023年9月27日のゼロックス普通株式の終値である1株当たり15.84ドルとした。この取引完了にともない、アイカーン氏側のジェシー・リン氏とスティーブン・ミラー氏、および独立取締役のジェームズ・ネルソン氏は、ゼロックスの取締役会を辞任した。
これにともないゼロックスは、アイカーン氏側の意向にとらわれることなく、複合機販売事業を展開することができる。
アイカーン氏は、米国で著名なアクティビストだが、日本では特に複写機業界では、ゼロックスの経営を左右する大株主として著名になった。カール・アイカーン氏が初めてゼロックス経営の表舞台に立ったのは、2016年1月のこと。アイカーン氏は、ゼロックスからビジネスプロセスアウトソーシング(「BPO」)会社を分離独立することで、当時のゼロックスのウルスラ・バーンズ会長兼最高経営責任者(CEO)と合意した。
さらに、2018年1月22日(現地時間)に、当時発覚した富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)の不正会計を問題視して、当時富士ゼロックスの株式の25%を所有していたゼロックスに、富士フイルムとの合弁事業の在り方について解消を含めて検討を求める意見書を提出したことで、日本の複写機業界でも存在が知られるようになった。
これに対し、ゼロックスのジェフ・ジェイコブソンCEO(当時)は富士フイルムとの間で、まずゼロックスが富士ゼロックスを経営統合し、次いで富士フイルムが富士ゼロックスの売却代金で(富士ゼロックス経営統合後の)ゼロックスの発行済み株式総数の50.1%を取得して、富士フイルムがゼロックスの経営権を取得することで合意。2018年1月31日に富士フイルムが発表した。
アイカーン氏は、富士フイルムが現金の外部流出なしにゼロックスを傘下に収めるこの買収・経営統合に反発し、ジェフ・ジェイコブソンCEO(当時)とのゼロックスの主導権争いで2転3転した後、5月にジョン・ヴィセンティンCEO(当時)を擁立することに成功した。ゼロックスは、富士フイルムとの先の買収・経営統合を撤回する。
その後、2019年11月になって、富士フイルムは富士ゼロックスの株式の25%をゼロックスから取得して100%子会社にするとともに、ゼロックスと5年ごとに結んでいたブランド使用契約や両社間の販売テリトリー契約を更新しないことでゼロックスと合意。新たに富士フイルムからゼロックスへ製品をOEM供給する契約を結ぶ。ゼロックスとの契約解除にともない富士ゼロックスは社名を富士フイルムビジネスイノベーションに替えて、ようやく両社の関係に落ち着きを取り戻していた。
その富士フイルムからゼロックスへの製品供給契約も、2024年秋には更改期を迎える。アイカーン氏側がゼロックスの全株を手放したことにより、アイカーン氏の意向を汲む必要のなくなったゼロックスの新経営陣がどのような経営をするのか、競合他社や米国のゼロックス・ディーラーなど、さまざまな業界関係者から去就が注目されている。